「やったことをどんどん正解にしていけばいい」――CFOを歴任する会計士が語る「やりたいことを実現する」事業会社の見極め方 前編
株式会社RECEPTIONIST CFO
川村 卓哉 氏(写真右)略歴
- 2008年
- 慶応義塾大学商学部 卒業
早稲田大学大学院会計研究科 入学
公認会計士試験合格、後、有限責任監査法人トーマツ TS部門 入所
上場会社及びIPO準備会社の監査/コンサルティング/ベンチャーサポート業務に従事。
IT業界を中心としたクライアントの新規上場支援、財務DD、東南アジアでの業務も経験。 - 2015年
- 民泊・旅行ビジネスを手掛けるベンチャー企業に入社、管理マネージャーに就任。
- 2017年
- MAMORIO株式会社に入社、CFOに就任
- 2020年
- 株式会社エアトリに入社、執行役員に就任。
- 2024年
- 株式会社RECEPTIONIST 入社。CFOに就任。
INDEX ー前編ー
監査法人を振り返って...今も活きる経験/事業会社とのギャップ―「事業会社には、他の領域に活躍の場を広げるチャンスが常にある」
―監査法人時代にどんなキャリアを思い描いていましたか?現在とギャップはありますか?
川村氏監査法人では「トータルサービス部(TS)」という多岐にわたる業務に関与できる部署に所属していました。元々IPO支援に関与したい思いがあって会計士を目指したので、そのようなことができる部署に配属されたのは良かったなと思っています。
当時から、将来的には会社の中に入って経営陣の一員になりたいという気持ちがあり、監査法人で一定の経験を積んだ後は、事業会社に転職しようと思っていました。それは最初の転職から現在まで貫けていて、思い描いた通りのキャリアを歩むことができているように感じています。
―その後、事業会社のキャリアを歩まれて、監査法人と事業会社との間に感じたギャップや、慣れるのが大変だったと思うことはありましたか?
川村氏ギャップは確かにありました。
監査法人では、所属している人の得意なスキルや知識が似通っています。一方で事業会社では「他の人にはないスキルや知識を持っている」、「特定の分野に突出している」という人がいるので、スキルをレーダーチャートで表現した場合、その得意不得意によってチャートの凸凹具合が全然違うという印象を持っています。
だからこそ発見できる自分の得意や強み、というのもあります。
例えば、元々マーケティングの経験がない会計士が、ベンチャー企業でマーケティングの数値管理を任されたことをきっかけに、CFOじゃなくて事業責任者として活躍している、なんて例も聞きます。数字管理が得意という強みを持ちつつ、会計以外の分野でキャリアを積む会計士の方は結構いたりしますね。
事業会社には、他の領域に活躍の場を広げるチャンスが常にあると思います。自分ではそんなに得意じゃないと思っていたことも、事業会社の中でやってみると意外と秀でてるところがあったりします。そういう意味で、事業会社はキャリアの可能性がすごく広がる場所だと思います。
―今振り返って、監査法人時代に「やっておいて良かった!」と思う経験は何ですか?
川村氏よく言われる、主任(主査)の経験はやっておいてよかったと思ってます。もしこれをやらずに転職してたら、後悔したかもしれないです。
―マネージャー・主任のご経験は、どんなところが活きていますか?
川村氏やはり、自分が答えを出さなくてはならないところですね。 経営者の方々と直接やり取りして、責任を持って判断する場面が増えるんです。もちろん、最終的にはパートナーなどの上長がフォローしてくれることもありますが、「自分で決定する」という経験はその後のキャリアでも必ず活きると思います。
主任(主査)、監査法人によってはマネージャーと呼ばれる役職が該当するかもしれませんが、その役職になると、価値を出す相手(=クライアント)に対して自分の判断を示していく必要があります。
事業会社のキャリアの中では、経営陣の一員として、社長やほかの部署に自分の判断を示すこと、その判断で価値を出さなくてはならない場面が出てくるのですが、その覚悟が身に付きます。
会計士として独立するにしても、事業会社に勤務するにしても、責任は大きくなるばかりなので、監査法人時代に、「小さな事柄でも自分で判断する」という経験をどんどん積んでいった方がいいんじゃないかなと思います。
法人の"中"の仕事も、もちろん大切だけど、社外の人に対して価値を出すということが将来的に役立つと思います。
―少し細かいですが、M&A業務、とりわけDD(デューデリジェンス業務)はやっておいてよかったですか?
川村氏やっておいた方が良いと思いますが、マストかと言われるとそうではないと思います。その後、全然M&Aがないようなベンチャーに行くこともありますから。
監査法人時代に関わったのは、グローバル企業の大型プロジェクトではなく、小規模のDDプロジェクトだったんですが、この経験がその後に活きていると感じることはあります。
キャリアストーリー~"成功"のための事業会社の選び方~
略歴(監査法人退職後)
- 2015年
- 民泊・旅行ビジネスを手掛けるベンチャー企業に入社、管理マネージャーに就任。
- 2017年
- MAMORIO株式会社に入社、CFOに就任
- 2020年
- 株式会社エアトリに入社、執行役員に就任。
- 2024年
- 株式会社RECEPTIONIST 入社、CFOに就任。
―キャリアストーリーをお伺いできればと思います!まず1社目ですが、なぜCFOではなく、管理マネージャーのポジションに入られたんですか?
川村氏そうですね。一社目はCFO直下のポジションでした。最初からCFOになれるようなベンチャーも選択肢にはありましたけど、中長期的に自分のスキルを高めたいという思いから、自分に不足している部分をCFOから学ぶためにこのポジションを選びました。
―今振り返ってどうですか?そういった段階を踏んでよかったと思いますか?それとも、いきなりCFOでもよかったな、と思いますか?
川村氏振り返ってみると、やってよかったと思っています。結果として社内で学ぶ機会が多かったことで、効率的に知識を吸収できました。
一方で、いきなりCFOに就任しても、外部(VCやアドバイザー)から学ぶ機会もあることが多いので、その環境が整っているのであればCFOとして入るのもいいと思います。
ただ、当然ながらファーストキャリアでCFOとして入れる機会は限られますし、スタートアップの中でもアーリーフェーズの企業が中心になります。そういった会社でしか経験できないこともある一方、リスクも大きいです。私の場合、最初に選んだ会社が成長フェーズにあったため、IPO準備や資金調達といった具体的な業務に関われたのが良かったと思います。
最初からリスクの高いスタートアップ企業にCFOとして入社して、資金調達がうまくいかないことや、IPO準備が長期化することも普通にあるので、見極めは重要かと思います。
そうした状況を踏まえると、CFOとしての業務を段階的に経験できたという点では自分の選択が良かったと感じています。
―CFO直下だからこそできる経験が1社目の魅力の一つだったのだと思いますが、それ以外で決め手になったポイントはありましたか?
川村氏毎回転職する度に考えているのは、「①事業領域、②経営陣、③自分がどういう貢献ができるか」ということなんです。
「事業領域」については、トーマツ時代に旅行領域のベンチャーのIPOを支援していて、元々旅行が好きなこともあり、事業領域としても面白いなと魅力を感じました。ちょうど東京オリンピックなどでインバウンド市場が成長している状況でもあったので、成長が期待できる旅行市場のなかの、民泊というのは興味をもてる事業領域でした。
次に、「経営陣」について。代表が旅行領域に深い知見のある方で、CTOもIPOを経験したことがある方でした。各分野で実績のある経営陣から学べる環境に魅力を感じましたね。
そして、「貢献できるか」の部分ですが、その会社にはIPO準備に精通した会計士バックグラウンドの人はまだいなかったんです。なので、自分のスキルを活かして貢献できる領域があると思い、入社を決めました。
―事業会社でのご経験ができたことで、前回の転職とは違った視点もあったかと思うのですが、2社目の決め手は何だったんでしょうか?
川村氏基本的に軸は変わらず(①事業領域/②経営陣/③自分がどういう貢献ができるか)です。それに加えて、当時市場が盛り上がり始めていたIoTデバイスの中で、日本で一番売れているという実績があった点。小さい市場ながらもその領域でトップシェアを取れるというところは魅力的だと思いましたね。
大きい市場で競争にさらされているところよりも、「一番を取れる事業」がいいなと思っていたし、一つ決め手になりました。経営陣も年齢が近くてバランスも取れていたので、総じて「いいな」と思いました。
―次に入社されたエアトリには、どういった経緯で入社されたんですか?
川村氏これまでと違ったのは既に上場していた企業だったことです。
まず、転職を決意した経緯としては、1社目もそうだったんですが、2社目もIPOにはまだ時間がかかりそうで、競争関係が激しくなっていたことを感じました。
もう一つ、IPOの直前2年くらいはCFOが必要ですが、まだIPOまで時間がかかる状況のなかで、果たして自分がいる必要があるのか、とも思ったんですよね。
そんな状況の中で、もう一回IPOを目指すベンチャーに転職しても、同じことを繰り返す可能性だってあるわけじゃないですか(笑)
―たしかに、そこは少し迷いそうですね(笑)
川村氏もちろんそれも一つの選択肢だとは思いますが、当時の自分は、機会があるなら違うキャリアもいいかな、と思ったんです。
具体的には、投資を受ける側から投資する側に回ってみるとか、上場準備ではなくすでに上場している企業の経験を積むのも面白いかなと考えるようになりました。
それで、柴田社長(株式会社エアトリ 代表取締役社長兼CFO)から「IRや投資事業を担当してくれる人を探している」ということでお声がけいただいて。 自分が貢献できるポイントもあるし、元々興味のある旅行やIPOに関連する事業領域でもあるし、経営陣に尊敬できる柴田社長がいたというところもあって、最終的には決めました。
―ファンドやIPOコンサルなど色々な道があったと思いますが、事業会社を選ばれた理由はありますか?
川村氏幅広い経験をして、自分のスキルを高めるには、事業会社が最適だと思ったからですかね。
規模が大きくて上場している企業で、「どういった意思決定をしているのか」や「どのような人がいて、どのようにマネジメントをしているのか」というようなことは、実際にその会社に入らないと学べないことだと思ったんですよね。
―上場企業での経験があったからこそ見えてきたものもあったと思いますが、株式会社RECEPTIONISTへの転職の決め手はなんだったんでしょうか?
川村氏やっぱり軸は全然変わらず(①事業領域/②経営陣/③自分がどういう貢献ができるか)なんですが、事業領域の見方は少し変わったかもしれないです。ちょっと...目利きと言ったらおこがましいですけど(笑) 前の会社の経験から、「こういう会社だったら成功するな」みたいなのはやはり考えるようになっていましたね。
2024年になってから転職活動を決めたのですが、2023年後半くらいからは次の道を漠然と考え、様々な会社を見ていました。そんな中で、RECEPTIONISTは、競争に激しくさらされない、言い換えれば"ちゃんと勝てそう"な領域で、シェアもあり、受付の実務経験者が代表を務めているという独自の強みがあるというのを感じました。
SaaSという事業領域自体にも魅力を感じており、安定して成長できる要素が多い会社だと感じたのが決め手でした。
―こういう会社なら成功しそうだな、というのは、どういったポイントで見られることが多いんですか?
川村氏大前提として「自分が価値を感じる事業」であること。
それにプラスして「不足してるパーツが少ないか」とか、「人員が揃ってるか」ということですかね。新しく入った会社の事業が「本当に成長するのか」というのは、正直なところ誰もわかりません。なので、大化けするかということを当てるのは難しいですが、堅実に成長しそうだと感じる要素は見極めるようにしています。
例えば、ある程度必要な人が揃っていると不確実性が低く、成功への基盤が整っているといえますよね。これから集めなきゃいけない人・リソースがどれだけあるのか、それが実現できるのか、ということを考えると、会社の展望を見極めることにもなると思います。
―ありがとうございます!きっと皆さんとても参考になるお話だと思います。このポイントについては、CFOのキャリアを考えている方からご質問いただくことも多いんです。
川村氏ただまあ、なんか..."本当に成功するか"だけで会社を選ぶのは、あまり良くない気はしますけどね。そんなことは誰にもわからないので。
自分が価値を感じるサービスに携わり、そこで自分が成長できた経験は全く後悔にはならないと思うんですよ。大企業や規模の大きいスタートアップベンチャーの一員として働くよりも、少数精鋭の会社で自分が成果を出すことが楽しい、ということもあると思う。
どんな成果を出したいか、どの働き方が合っているのか、といった要素も考慮する必要があります。成長要素も重要ではあるけれど、個人的には(成功するかどうか、ということを)一番の最優先事項にはしない方がいいと思いますね。
事業会社で感じた課題―「粘り強く交渉して成功へ導く」
―事業会社に入ってから感じた課題感や身に付いたスキルはありますか?
川村氏(1社目で)事業の立場から資金調達を経験したことによる学びは多かったです。
資金調達の際に、なかなかバリュエーションが合わなくても粘り強く交渉し、自社や経営陣にとってよりよい条件になるようにこだわる、という粘り強さや、資金調達の契約書作成などの実務的な部分が身に付きました。
―交渉で大変なところはどんなところですか?
川村氏当たり前ですけど、会社が順調であれば交渉もそんなに必要なく、うまくいくことが多いですよね。
スタートアップ・ベンチャーは波があり、うまくいっていないときでも資金調達が必要です。その場合は、「うまくいっていないところはこうです。ただし、今後このように改善していく計画です」と、きっちり説明する必要があります。
中々うまくいっていない会社の現状を粘り強く説明しながら資金調達を成功させることは難しかったですけど、そうした経験が力として身に付いたと思います。
―いわゆる「営業力」でしょうか?
川村氏そのようにいえるかもしれません(笑)
―上場企業にご入社された際に身に付いたことはありますか?
川村氏上場企業に入社してからは、東証とか財務局の法規制に関する対応や経験が大きかったです。IPO準備会社や監査法人では認識しきれていなかった、上場企業としての広い業務に実際に取り組むことできたのは貴重な経験でしたね。自分が思っていたより細かい作業が多いと感じました。
あとは、上場という結果を出している企業の中で、利益を出すだけでなく、従業員をモチベートして成果を出すことの重要性も学びました。
チームの士気を高め、結果を出すために徹底していることなど、マネジメントスキルも学べたと思います。
―以上、ここまでが前編となります。後編では、「CFOとしての歩み方」や「RECEPTIONISTの魅力」「若手会計士へのアドバイス」を聞かせていただきました!ぜひ後編もご覧ください。