会計・税務の枠に捉われない、中小企業に寄り添ったサービスを提供するためには!?
J-TAP Group(株式会社J-TAPアドバイザリー/J-TAP税理士法人) CEO 片寄学氏(公認会計士/税理士)
「会計・税務の枠に捉われない、中小企業に寄り添ったサービスを提供したい!」その想いで自らコンサルティングファーム、税理士法人を開業した公認会計士 片寄学さんにお話を伺いました。
監査法人で経験できたこと、独立したきっかけ、事業再生・M&A・事業承継で会計士が得られる経験などざっくばらんにお話頂きました。
監査法人から転職してきたばかりの河北さんにも転職の背景や、転職直後に感じたリアルなギャップも伺うことができました。
事業再生や将来独立を考えている会計士の方にとってヒントになるのではないでしょうか。
監査法人での経験と成長するコツとは?
―会計士を目指されたきっかけについて教えてください
私は大学の附属高校からエスカレーター式に進学し、大学受験をしなかった分だけ、何かスキルを身につける必要があるという課題認識がありました。
大学進学時は、漠然と「世の中の仕組みを知りたい」と思っていたため、政治経済学部政治学科を選びましたが、実際、政治学を学んでも哲学的なことが多く、自分の学びたい事とは違うなと感じました。
そこから、世の中の仕組みを考えるのであれば、"経済"や"お金"について学ぶべきだと考え、公認会計士の資格を知り勉強を始めました。
合格までに3回受験し、そこで初めて挫折を味わいました。
挫折をした時「失敗した時にその人の真価が問われる」と父に言われ、「やり切るしかない!!」と覚悟を決めたことを覚えています。
この時の挫折経験は、今のキャリアパスや仕事に繋がっていると思います。
―合格後、新日本有限責任監査法人(以下新日本監査法人)に入所された理由はありますか?
中堅監査法人で、早くから何でも任される環境の中で最速で実力が着くという点は、魅力的に感じましたが、まずは大手監査法人に入って"あるべき姿"を
覚えて、成長の土台を作ろうと思いました。
また、金融業界に興味があったことから、当時、優良な金融業界のクライアントを多数持っていた新日本監査法人に入所を決めました。
―新日本監査法人ではどのような業務に携わってきたのでしょうか?
希望通り金融部に配属となり、日系・外資系の大手金融機関、地域金融機関、PE投資会社、ベンチャーキャピタル、ファンド等の監査業務に加えて、大手金融機関向けの海外子会社を含む内部統制構築支援、 IFRS導入支援、M&A後の会計管理体制構築支援等各種会計アドバイザリー業務にも一通り従事しました。
また、後半は、公的ファンドへの常駐、中小企業向けの事業再生支援業務にも従事していました。
ただ、入所したばかりのスタッフ時代は、BIG4の華やかなイメージがあった中で、現実は大量のコピー取りやシュレッダー、指サックをはめて、ひたすら資料を探すといった庶務的な業務からのスタートで泣きそうになったことを思い出します(笑)
「これは会計士のする仕事なのかな...」と内心思いながらも、前向きに色々な仕事に取り組みました。
楽しく、工夫をしながら目の前の仕事に取り組むのは当時から得意だったと思います。
―監査法人で経験できたことを教えてください
振り返ってみると、監査法人での経験はイベントに恵まれていたと思います。
1年目の後半くらいにメガバンクグループの証券会社同士の合併プロジェクトがありました。
部をあげてのビッグプロジェクトでしたが、そのコアメンバーとして携わることができました。
そこでは自分の存在感を発揮すべく、とにかく全力で仕事に取り組み、結果として、何でも任される何でも屋になっていました。
いい意味で(笑)。
リーマン・ショックの時は、証券会社の金融商品の時価の監査を担当していましたが、100年に一度といわれる金融危機という今までにない状況の中、
ゼロベースで手続きを考えたりしていたので、仮説を立ててそれを検証していく良い訓練になりました。
また、クライアントとの折衝も担当していたので、クライアントの言うことに耳を傾けつつも、監査法人の立場として守るべきところのせめぎ合いで、
落としどころを見つけていくという点においては、複数の利害関係を調整していく経験ができました。
3年目に証券会社系の投資会社の現場責任者を担当し、チームマネジメントを経験し、財務諸表全体を俯瞰する力、プロジェクトマネジメントの力が身についたと思います。
4年目ごろからIFRS導入や会計アドバイザリー業務を担当するようになりました。
この頃からアドバイザリー業務は監査と比べてクライアントに寄り添ったサービス提供ができるなと感じる一方で、あくまで財務会計の数値を作る側の仕事だったので、もっとビジネスに近い領域で、数字を作る側ではなく、数字を使っていく仕事をしたいという思いが強くなりました。
―「事業再生」の領域に興味を持たれたきっかけを教えてください。
金融機関のフロントやコンサルティングファームへの転職を意識し始めたころに東日本大震災が発生しました。
新日本監査法人内で公的ファンドを立ち上げる投資担当メンバーに手を挙げ、約半年間仙台に住みながら被災者の再生支援に携わったことがきっかけとなりました。
―公的ファンドではどのような業務に携わっていらしたのですか?
ファンドでは、東日本大震災により事業を毀損させ、過剰債務となってしまった債務者の借入を地域金融機関から買い取り、金利減免、債権放棄などの金融支援をすることが主たる事業内容でした。
ファンドには、メガバンク、DBJ、地域金融機関、弁護士、コンサル等様々なバックグラウンドを持った人材が出向していて、チームで投資案件に取り組んでいました。
私は、投資担当者として、被災した中小企業の事業・財務DD、事業計画の策定、債権のバリュエーション、金融機関との交渉などを担当しました。
こうした様々なバックグラウンドを持った仲間と、被災事業者の再生という共通の目的を持ってたチームで仕事をすることは、お客様やその利害関係者に自分自身の与える影響が大きいという意味において、私にとって非常に刺激的でやりがいのあることでした。
この経験は、後に会計、税務に捉われず、事業、法務分野にもわたる幅広いサービスを提供するコンサルティングファームを作ろうと思うきっかけにもなりました。
独立を決意した背景とは
―監査法人を退職し、独立された背景を教えてください。
監査法人に長くいるつもりはありませんでしたが、周囲の優秀な人やプロジェクトに恵まれて、結果的に7年程度在籍し、お世話になりました。
その中でも、直接的に独立するきっかけとなったのは、公的ファンドに常駐し事業再生業務を経験できたことと、そこでの"人"との出会いです。
ファンドに出向する前までは大手金融機関を担当していたため、中小企業のリアルな事業環境を目の当たりにして、衝撃を受けました。
そして、経営、財務、会計税務、法務分野等幅広い悩みを抱えている中小企業の経営者の多さと、その悩みに対して適切なアドバイスができる専門家が不在であるのを体感しました。
顧問税理士には会計記帳と税務顧問サービスを依頼しているものの、経営者の悩み解決まではしきれていない。
一方で、監査法人で行う事業再生業務は、報酬水準が中小企業の規模に見合わないことが多く、DD、事業計画の策定や取引スキームの検討など、事業再生の入口業務が多く、事業計画策定後も事業者にコミットして継続してお付き合いしていくということは少ないなというのも見えてきました。
日に日に、「監査法人では規模感的に提供できないような、中小企業にもっと寄り添った事業再生支援サービスを提供したい」という思いが募り、半ば勢いで独立することを決めました。(笑)
様々なバックグラウンドを持ったメンバーが、中小企業に寄り添ったハンズオン型のサービスを提供したいという一心でした。
ファンドから監査法人に戻り事業再生支援業務に従事する際、コンサルティングファーム出身の上司の下でお客様に対する成果物のこだわりを学べたことに加えて、ファンドで知り合った方々から、私指名でお仕事を頂く機会が続き、一緒に取り組んだ仕事を認めて頂いたという嬉しさと、自分の名前で仕事の依頼を頂ける喜びを体感したことも独立を決意したきっかけとなっています。
―起業された当時の不安はありますか?
独立当初は「やりたいこと」はありましたが、中長期的なビジョンはそこまでありませんでした。
不安だったのは、これまで周りに優秀な人たちがいたことで、自分が成長できていると感じていたので、独立した後は『自分が成長し続けていけるのか?』という漠然とした不安がありました。
実際独立してみると、成長の機会だらけでした。
特に"相手に対する感度"は抜群に高まったと思います。
お客様にダメだなと思われたら仕事が切られるし、従業員が働きづらいな、成長できないなと思ったら退職されます。
どんなフィードバックよりも直接的なものがありました。現在従業員は、17人となり、常に周囲から成長の機会をもらっています。
独立をすると、日々新しいことに取り組む必要があったり、お客様、従業員等から直接的なフィードバックがあったりするので、常に前向きで仕事を楽しもうという姿勢は大事にしています。
中小企業に寄り添ったサービスを提供していく
―J-TAPさんの業務内容を教えてください。
J-TAPでやっていることは『中小企業への経営、財務、会計・税務、法務分野のプロフェッショナルサービスの提供』です。主たるサービス内容は、
「①ワンストップ型の事業承継・M&A・事業再生支援」、「②CFO型の税務顧問サービス」、「③その他の経営、財務、会計税務、法務分野のサービス」です。
サービスの特徴としては、①ワンストップサービス、②ハンズオン型の支援の2点と考えています。
①ワンストップサービス
会計士及び税理士の他、投資銀行出身者、事業再生コンサル出身者、弁護士、戦略系コンサル出身者などのメンバーを揃えており、ワンストップでサービス提供できる点が最大の特徴です。
一般的に、事業承継・M&A・事業再生支援の業務においては、経営、財務、会計税務、法務の分野のそれぞれの高度な知識が必要となり、中小企業の経営者は各専門家を領域に応じて依頼することになります。
一方で、Big4FAS出身者のブティック系ファームを含む一般的な会計事務所においては、事業承継局面では親族内承継を前提とした株価引き下げ及び相続税対策、M&A/事業再生局面では会計税務DD、株式・事業価値評価等、業務が会計税務に偏ることが多いと思いますが、弊社ではワンストップでサービスを提供できることが特徴となっています。
具体的には、事業承継局面においては株価引き下げ対策のみならず、会社のBS・PL面の実態把握・事業承継方法を含む中長期の計画策定、従業員もしくは第三者(M&A)への承継対応、後継者による組織管理体制の構築等も含めて対応いたします。
M&A局面においては、会計・税務DD・バリュエーションのみならず、売主・買主の探索、取引スキームの検討、エグゼキューション等のフィナンシャルアドバイザリー業務、法務助言、法務DDまで対応いたします。
②ハンズオン型の支援
「お客様に寄り添ったサービスを提供したい」という想いから、弊社ではハンズオン型の支援を志向しています。
事業再生支援業務では、事業・財務税務のデュー・ディリジェンス及び事業計画の策定支援に加えて、経営陣の意識改革や組織の一体感の醸成を目指した事業計画実行支援業務に一番力を入れています。
さらに、コンサルティングサービスに加えて、自己資金投資を実行することで、お客様の事業にコミットする場合もあります。
お客様にとって一生に一度しかない重要なイベントのお手伝いをすることも多いので、お客様と強い信頼関係を築くことができ、専門家としても人間としても、大きく成長できる環境だと思います。
会計税務顧問サービスでは、会計税務+αの価値提供を目指しており、スポットでCFOを置くことをイメージして頂くと近いと思います。
一般的な会計税務サービスに加えて、経営の見える化(管理体制の構築支援)、金融機関対応、資本政策等の財務助言、会計基準対応及び海外対応、
を経営状態やお客様のニーズに応じて提供します。
様々なバックグラウンドのメンバーと協働し、多種多様な業務経験を積むことで、業務の幅が広がり、「働く楽しさ」につながっていくと考えます。
―今後チャレンジしていきたいことについてお聞かせください。
今後は、この①ワンストップ型の事業承継・M&A・事業再生支援、②CFO型の税務顧問サービスの2つのサービスを更に広げていきたいというのがベースにあります。
そして、3~5年の間に、会計士・金融業界の中で、「再生・承継・M&Aといったらあの会社だよね」と言ってもらえるように、実績を上げ、知名度を高めていきたいですね。
現在は、コアメンバーを固めて、組織の土台を作っていきたいと思っています。
"全社員に対して自己実現できる場所を"
-この理念を掲げて、当社は「社員が楽しめる職場づくり」に最も力を入れて取り組んでいます。
ここでの「楽しさ」は、「楽する」という意味の「楽しさ」ではなく、「愚直に取り組んだその先にある成長」という意味です。
また、社員がその「楽しさ」を感じ、成長することこそが、お客様への品質の高いサービスの提供、ひいてはお客様の成長・成功につながると考えています。つまり、「社員ファースト」の結果が、「クライアントファースト」と考えています。
また、将来的には、事業承継・事業再生ファンド事業の各地域での立ち上げと運営にチャレンジしたいと思っています。
当社の自己資金投資や事業再生支援業務で蓄積されたノウハウを活かし、お客様の事業にさらにコミットすることが可能となり、その経験が更に、事業再生支援業務(コンサルティング業務)にも良い影響を与える相乗効果があると考えています。
最終的には、組織をしっかり作って、お客様からの信頼を得ることはもちろんですが、社員から、「J-TAPに入って本当に良かった」と言われるような、J-TAPの社員であることを誇れる会社にしていきたいですね。
若手会計士に向けたアドバイス&転職者の声
―監査法人でキャリアに悩んでいる会計士に向けてアドバイスをお願いします
"目の前のことに一生懸命に取り組むこと"
とにかくそこに尽きると思います。任された仕事は一生懸命やる。
監査の仕事は究極的にはアウトプットが同じなだけに、どのようにやるかによって、いくらでも成長の機会があるし、個人の努力次第で成長の振れ幅がとても大きいと思います。
そして、事業承継・M&A・事業再生の領域は若手会計士が監査法人から次のキャリアを形成していくのに、とても成長できるキャリアだと思います。
経営、財務、会計税務、法務分野の専門的知識に加えて、利害関係者の感情にも配慮した判断ができる人間力が身につく経験ができます。
テクノロジーの進化によって単純作業や専門家による判断はなくなっていく一方で、人間の感情に配慮できる人間力を備えていることこそ、これからの専門家に求められてくることだと思います。まさに事業承継・M&A・事業再生はそういった総合力が身につく領域だと思います。
AI時代でも社会やお客様から必要とされる、「会計、税務の枠に捉われない、人間力のある専門家」を当社からもどんどん輩出していきたいと思っています。
―本日、実は最近入社された河北さんにも同席頂いています!
河北さんにも伺います。監査法人から転職するにあたってどんな軸で転職活動を行い、J-TAPさんに入社を決めたポイントは何だったのでしょうか?
転職の軸は2つありました。
・中小企業の支援をしたい
・個人裁量が大きく自己成長できる環境で働きたい
この2つにおいて、片寄と話をして共感することが多かったのですが、決め手は「J-TAPをこれから成長させたい。その力になってほしい。」と言われたことですね。
これから大きく成長していく事務所のメンバーとして働け、自分の成長が会社の成長に直結するところにもワクワクしました。
―言いづらいかもしれませんが入社してギャップはありましたか?
入社前に何度も面談し、片寄や他のメンバーと話をしたことで、仕事内容や事務所の雰囲気に関してはギャップを感じることはないですね。
一方で、監査法人よりもJ-TAPに入社した現在の方が、会計士の価値というものを改めて実感しています。
中小企業の経営者に財務分析の結果を伝えると、「うちの会社はそうなっていたのか!」とおっしゃられたことがありました。
中小企業の経営者は、長年の経験に基づいて経営されていますが、財務数値に強い方は多くなく、我々会計士が価値を提供できる場面は多々あるなと感じております。
―河北さん今後の目標について教えてください。
まずは再生案件等の仕事を1人でまわせるようになることですが、その後は「社内独立制度」を使い、関西に拠点を作ろうという話を片寄としています。
これは入社する時にも正直に話しているのですが、将来的には私の地元である関西で働きたいと思っています。
最初は1人で独立することを考えていたのですが、J-TAPではなかなか個人事務所では携わることができないようなM&A等の案件を受注することも増えてきており、片寄をはじめJ-TAPの他のメンバーとそのような案件に関わることはとても刺激的で勉強になっております。
また、私1人の力よりもJ-TAPメンバーの協力を得ることで、より多くの中小企業のお力になれるのではないかと思います。
定期的に東京にも足を運び、ビジネスの中心・最先端に触れながら、関西でもその情報やノウハウを活かして地元を盛り上げていくのが私の目標です。
―片寄さん、河北さん本日は貴重なお時間ありがとうございました!
Profile
片寄 学(かたよせまなぶ)
早稲田大学政治経済学部政治学科 卒業
2006年 新日本監査法人
(現:EY新日本有限責任監査法人)
入所 金融部配属
2012年 公的ファンドにて常駐して勤務
2013年 株式会社J-TAPアドバイザリー
(旧株式会社日本再生パートナーズ)の代表取締役に就任(現任)
2015年 J-TAP税理士法人の代表社員に就任(現任)